M2

世界が熱狂したM2を振り返る

2021年1月、シンガポールでモバイルレジェンド世界大会M2が開催されました。

日本からは10second gaming frostが招待され、出場しました。

コロナの影響もあり前回のM1に比べて規模は縮小されましたが、世界中から競合チームが集まり熱戦を繰り広げました。

ここでは日本から参戦した10sfの試合を中心に振り返ってみたいと思います。

参加国と代表チーム

M2は東南アジアを中心とした世界9カ国から12チームが参加して行われました。

MPL開催国から

開催国シンガポールのResurgenceとEVOS SG

インドネシアのRRQとAlter Ego

フィリピンのBrenとOMEGA

ミャンマーのBurmuse Ghouls

MPL非開催国から

日本の10sf

カンボジアのImpunity KH

ロシアのUnique DEVU

ブラジルのDream MAX

いずれも国を代表する強豪チームです。

グループステージ

まず参加する12チームが3チームずつ4つのグループに分かれて予選に当たるグループステージが開催されました。

ここを勝ち抜いた8チームがプレーオフトーナメントに参加して優勝を争います。

日本の10sfはグループステージでインドネシアのAlter Ego、フィリピンのBren、地元シンガポールのRSGと対戦しました。

日本はAEとBrenのいるグループCに入りましたが、このグループは大会でも一番レベルが高く厳しい「死のグループ」と呼ばれました。

2020年11月に東南アジアで行われた世界大会「MPL Invitational」はM2の前哨戦とも言われましたが、そこで決勝戦を戦ったのがまさにAEとBrenでしたから、10sfは世界のナンバー1と2のチームと同組に入っていたというわけです。

日本を代表する人気チームが彼らとどこまで戦えるのか、世界中が注目していました。

10second gaming frostのメンバー

10sfのメンバーはM1出場時から顔ぶれが4人変わっており

Obuyan選手(サポート・メイジ)

Peco選手(サイドレーナー・ファイター)

PAPPA選手(サイドレーナー・ファイター・メイジ)

KORO選手(サイドレーナー・ファイター)

SHINA選手(ジャングラー・ファイター・マークスマン・アサシン)

SEVNEA選手(サポート・タンク)

の6名がプレイヤーとして登録しており、マネージャーとしてKOZUさんがチームに帯同しました。

M1で世界のモバレファンに認知される事となったObuyan選手はもちろんのこと、世界最高峰のチームのひとつに数えられるRRQのコーチJamesさんは「色々なロールを幅広く高いレベルで使いこなすSHINA選手に警戒したほうがいい」と発言するなど素晴らしいプレイヤーたちが参戦しました。

グループステージ Alter Ego戦

2021年1月19日、グループステージフェーズ1の2日目に10sfが登場しました。

まずはインドネシアのAlter Egoが相手です。Alter EgoはM2の前哨戦であるMPL Invitationalを無敗で優勝しており、当時世界最強と見られていました。当然優勝候補の筆頭です。10sfにとって越えなければならない大きな壁と初戦で戦うことになりました。

グループステージ_AE戦_1試合目

注目の10sfのピックは

ヒーローポジション
ティグラルタンク
カジャミッドサポート
嫦娥サイドメイジ
シュウサイドファイター
ブルーノジャングラー

対するAEは

ヒーローポジション
シルバンナミッドタンクファイター
ローイーミッドサポート
嫦娥サイドメイジ
シュウサイドファイター
ブルーノジャングラー

という構成でした。

サイドレーンにメイジを一人とファイターを一人、ジャングラーにはハンターを配置する構成は同じですが、10sfは純粋なタンクヒーローであるティグラルを採用したのに対してAEは本来ファイターであるシルバンナをタンク役として採用しているところが違います。

ティグラルはシルバンナに比べて移動スキルとCCスキルがひとつずつ少ないのですが、その分耐久力があるので集団戦で壁役となって相手のスキルを受ける事が出来るかどうかが鍵になりました。

いざ試合が始まり、序盤はほぼ互角の展開が続きますが試合時間2分を過ぎたあたりでタートルを巡って集団戦が勃発。AEのタートルへの寄りが早く、AEが獲得することに成功しました。ここから徐々に有利を広げたAEは世界王者らしい貫禄ある試合運びで差を広げ、試合時間13分程で勝利しました。

9分を過ぎた時点で10sfは4キルを獲得しているのに対してAEは9キルを獲得。

ヒーロー毎のスコアで見ますと10sfのティグラルは1キル1デス1アシスト、AEのシルバンナは2キル0デス7アシスト。

このスコアの意味するところは、AEは10sfのタンクがいないところでキルを稼ぎ、有利を作っていたということ。シルバンナがティグラルを差し置いてサイドにガンクを仕掛けて10sfを揺さぶっていたということでした。

AEの方がミニオン処理の早さとミニオン周りでのダメージ交換で優れた構成であり、シルバンナはティグラルに比べて機動性が高いことを活かして上手く立ち回り勝利しました。

また、タートルを巡っての攻防では寄りの早さで後手を踏んでしまいましたので修正しなければなりません。

2試合目に同じ展開にならないように10sfは構成を練り直す必要が生じましたが、1試合目での敗北にショックを受けることなく切り替えて挑んでくれました。

グループステージ_AE戦_2試合目

10sfは

選択ヒーローポジション
ミノタウロスタンク
ローイーミッドサポートメイジ
ハリスサイドメイジ
ベラファイターアサシン
ジャングラー

対するAEは

選択ヒーローポジション
シュウタンクファイター
マチルダミッドメイジ
ゾンサイドファイター
クラウドサイドハンター
ロジャージャングラー

という構成でした。

10sfはミッドのサポートをカジャからローイーに変更してダメージ交換で有利に立てるように、またスペシャルスキルでの移動で奇襲をかけられるようにしました。

また、ジャングラーをハンターからアサシンに変えてファームのスピードを早め、サイドレーンにもアサシンを置いてミニオン処理の早さを上げガンクからも逃げやすいようにしました。

1試合目からしっかり修正された素晴らしい構成です。

対するAEは当時の環境で屈指の強さを誇るOPヒーローと言われたマチルダとゾンをピックして安定性を増していました。

試合展開は1試合目とは違って10分を過ぎてキルとタワーの獲得数では有利に立っており、10sfとしては申し分のない流れで推移していました。

しかしAEはクラウドとロジャーの二人のハンターがおり、試合時間を長引かせる事なく決定的な差をつけて試合を決着させてしまいたいところでした。

そして11分を過ぎたところでローイーのスペシャルスキルを活かした奇襲攻撃を決行。残念ながらAEに返されてしまい、そのまま試合終了となりました。

0勝2敗で敗れてしまいましたが、試合後にAEのサポートメイジ担当のUdil選手は「10sfは1試合目と2試合目で明確に戦い方を変えてきた。構成や試合展開に複数のバリエーションを持つことは簡単ではないし、10sfは素晴らしいチームだと思った。」と10sfを称えました。

この後、もうひとつの強豪であるBrenと戦うために切り替えねばなりません。

グループステージ Bren戦

Brenはフィリピンを代表する人気チームであり、MPL Invitationalでは準優勝に輝き勢いに乗るチームでした。

アサシンを使うのが非常に上手く、プレイヤー個人のスキルだけで見れば世界最強とも言われる超強豪です。

ですが逆に一人ひとりのスキルが高すぎるが故に個々の能力の高さに依存した作戦や展開になる事があり、一旦どこかのレーンが崩れると一気に瓦解する危険性もあるチームでした。10sfとしてはバンピックや連携で有利を取り、崩していかねばなりません。

グループステージ_Bren戦_1試合目

1試合目、10sfはタンクにロイン、サポートメイジにローイーをピックしました。これには大きな狙いがありました。

試合時間4分を過ぎたあたりでミッドのブッシュに隠れるロイン、ローイーとジャングラーのリン。ローイーは敵の青バフに向けてスペシャルスキルを発動、ロインも合わせてスペシャルスキルを発動し、バフを獲得しようとするBrenのジャングラーに奇襲をかける作戦でした。

惜しくもこの奇襲は成功しませんでしたが素晴らしい狙いだったと思います。

この後集団戦で敗れて徐々に差をつけられ、14分を過ぎたあたりでゲームセット。Brenの勝利となりました。

10sfは何度も上手い仕掛けがありましたが崩すまでには至らず、Brenのジャングラーであるハーリーにビルドの差をつけられてダメージを出されてしまいました。

Brenのミッドメイジのファーサは正確にスキルを当ててダメージを出し、それぞれの個人技が光っていたと思います。

グループステージ_Bren戦_2試合目

Brenが本来の輝きを見せつけました。

Brenのジャングラー役であるKarlTzy選手は得意のランスロットをピック。試合中盤で10sfを相手にサベージを獲得しました。

試合時間12分、22ー2キルの大差でゲームセット。Brenがフィリピン最強チームの実力を遺憾なく発揮して勝利しました。

この結果を以って10sfはグループCを3位の成績で終え、翌日のグループステージフェーズ2に進む事になりました。

10sfはこの試合では、ここまでの3試合に敗れたこともあり若干萎縮していたのかもしれません。積極性は薄れ相手の嫌がる動きが少なく、攻撃を仕掛ける回数も減っていました。Brenのペースで展開してしまった為に大差がついてしまいましたが、本来ここまでの差があるとは思えませんでした。

グループステージ RSG戦

グループステージフェーズ2ではシンガポール代表のRSGと対戦する事が決まりました。

初日のAEやBrenに比べて楽な相手であることは間違いありませんが、世界屈指の攻撃力を誇るチームです。

10sfは初日はAEとBrenを相手に敗れてしまいましたが、グループステージ2日目にRSGを相手に勝利できればプレーオフに進むことができます。

下馬評ではMPLマレーシア・シンガポールで優勝経験もあり国際大会経験豊かなRSGが有利だと言われていましたが、10sfが自分たちの試合ができれば十分に勝機がある相手でもありました。

グループステージ_RSG戦_1試合目

10sfは

選択ヒーローポジション
シルバンナタンクファイター
カグラミッドメイジ
ルビーサイドファイター
ラプラプサイドファイター
クラウドジャングラー

RSGは

選択ヒーローポジション
ヒルダタンクファイター
ローイーミッドサポートメイジ
ベラサイドアサシン
アリスサイドメイジ
イスンシンジャングラー

という構成になりました。

RSGは得意ヒーローのイスンシンをジャングラーに据えて、サイドにはベラを置き攻撃的な編成になりました。

10sfはタンクにシルバンナを採用してこの大会で猛威を振るう構成を取り入れた形です。Obuyan選手の得意なカグラもピックして万全な態勢に見え、大会初勝利がかなり現実的に思えました。

いざ試合が始まって序盤は膠着する中4分を過ぎたあたりでジャングラーのクラウドがベラに狙われて落とされてしまいました。

タートルも獲得され、徐々に差を広げられ試合時間15分で試合終了。

キル数は10-0と大差をつけられ、光明を見出すのが難しい展開となってしまいました。

このまま日本人モバレファンのM2は終わってしまうのか。

前日から続く連敗数は5を数え、もう1試合落とせば敗退が決まります。

シルバンナやラプラプのOPヒーローをピックしての完敗。巻き返しは困難に思える中、実況解説を担当するKazukitiさんは「大丈夫です、僕らが弱気になってどうするんですか。勝てますよ」と鼓舞します。この言葉に反応するかのように10sfは見事な変身を遂げました。

グループステージ_RSG戦_2試合目

10sfは

選択ヒーローポジション
シルバンナタンクファイター
ボボル&クバサポートハンター
カグラサイドメイジ
ラプラプサイドファイター
イスンシンジャングラー

RSGは

選択ヒーローポジション
ガレックタンク
セリナサポートメイジ
ゾンサイドファイター
アリスサイドメイジ
ハンゾージャングラー

という構成になりました。

10sfはサポートにボボル&クバを採用したのが大きな修正点です。ミッドにメイジサポートを置かない分魔法ダメージを増やす為にサイドにはガンク対応にも優れたカグラをピック。この大会で猛威を振るうイスンシンをジャングラーに置いて、今度こそ万全の態勢です。

RSGはタンクにガレック、アサシンにはハンゾーを採用しました。ガレックのミニオン処理能力の高さを活かしたガンクとハンゾーの安全な位置からの攻撃は脅威です。

いざ試合が始まり、序盤は膠着する中で4分を過ぎるころから10sfが連続してキルを重ね、タートルを獲得して有利を作っていきます。

11分を過ぎてロードを獲得した10sfはこれを利用してRSGの3rdタワーを折り、15分を過ぎたところで勝利。リーダーのObuyan選手にようやく笑顔が見え実況解説の二人の声も明るくなり、日本中のモバレファンが感激した瞬間でした。

ここまでの試合ではObuyan選手がサポートメイジヒーローを、SEVNEA選手はタンクをピックしていましたがこの試合ではObuyan選手がタンク役としてシルバンナを、SEVNEA選手がサポート役としてボボル&クバを担当しました。これでチームとしてのリズムが大きく変わってタンクとサポートの二人による仕掛けが増え、RSGのタンクサポートの二人が前に出ることが難しくなりました。それに伴ってサイドレーンのPAPPA選手のラプラプとKORO選手のカグラが動きやすくなり、ジャングラーのSHINA選手もファームしやすくなっていました。

試合時間9分の時点で10sfのキル獲得数は9。それに対してシルバンナのキル関与は7、ボボル&クバは6ですからタンクとサポートが仕掛けるか味方を守った上でキルを獲得できている証です。ヒーロー構成とメンバー編成を変える事で大きく展開が変わりました。

僅かな調整時間でチームの色をガラッと変えてすべてが上手く回るようにした10sfの修正力はもちろんの事、選手一人ひとりが弱気になる事無く動けた事も本当に素晴らしかったと思います。

グループステージ_RSG戦_3試合目

10sfはラプラプがルビーに変わったもののボボル&クバとシルバンナを再びピックすることができ、2試合目以上の完勝でプレーオフに進出する事ができました。

10sfが獲得した15キルのうちシルバンナが13キルに関与していた事から、タンク役となったObuyan選手の仕掛けが奏功しボボル&クバの味方を守る働きも効いていた事が分かります。

悔しかった日本のモバレファンの溜飲を下げると共に、日本モバレここにありと実力を示してくれた10sfは本当に素晴らしかったと思います。

余談ですが、

試合を終えた数時間後、大会敗退となったRSGは「10sfの勝利、おめでとうございます。我々のM2はこれで終わりますが、この大会で戦ったすべてのチームと、プレーオフに進出するチームの健闘を祈ります。ハンゾーやガレック等のマイナーヒーローをピックしたのは決して相手を甘く見たのではなく、あくまで勝利の為に採用しました。我々はまだ弱く勉強が必要ですが必ず強くなって戻ってきます。応援ありがとう」との声明を出しました。

負けて悔しいハズのチームがすぐにこのようなコメントを出せるのは本当に素晴らしい事ですし、プロチームとしての懐の深さを感じました。

プレーオフでの10sfの戦い

そして、M2における本戦「プレーオフ」に進んだ10sfは一回戦で、グループステージで一度戦っているAlter Egoと再戦する事になりました。AEはミッドメイジのUdilに替えてCaesiusを起用。余裕を見せた采配で再度10sfを圧倒しました。

この試合で敗れた10sfはM2の舞台から去ることになってしまいましたがこの大会で唯一、プロリーグを開催していない国から参戦してプレーオフに残ったチームになりました。東南アジア以外から参加して勝利を挙げたのも10sfだけです。

前回のM1以上の成績を残すことはできませんでしたが、日本の意地を見せてくれました。

大会結果

大会の結果は10sfとグループステージで戦ったBren Esportsが優勝し、ミャンマーから参加したBurmuse Ghoulsが準優勝となりました。

Brenの圧倒的なスキルの高さと攻撃力、Burmuse Ghoulsのバンピック戦略は見ていて非常に面白かったと思います。

特にBurmuse Ghoulsの戦略には世界が驚きました。シルバンナなどの大会で活躍を見せるヒーローを敢えてピックさせてディガーをピックして無力化するのです。この作戦で優勝候補と言われたBrenやRRQに勝利したBGは無敗のまま決勝に進出する活躍を見せてくれました。

M2から学ぶべきこと

M2で日本モバレはたくさんの事を学ぶことができたと思います。

グループステージからプレーオフまでの10sfの成績は2勝7敗で、BO3ベースでは1勝3敗でした。負けた試合では常に相手に主導権を握られているような試合展開で、相手の陣内で行動する事ができず逆に侵入されている事が多かったように思います。

良くない流れでの敗戦を断ち切る事ができたのはRSG戦の二試合目でしたが、ここでは逆に10sf側から仕掛ける事ができていました。構成や編成を変えたのが当たった形でしたが、これを最初から実行できていたら結果は違っていたのでしょうか。非常に難しいことではありますが大会開幕前に自分たちの戦いやすい形を見つけておく事と、戦い方のバリエーションを複数持っておく事が次回以降の国際大会への宿題になるかもしれません。

また、会場での選手の表情などを見ていますと海外のプロプレイヤーは非常にリラックスしている一方で、プロリーグ非開催国からやってきたチームは心なしか表情が固いように見えました。大会での真剣勝負の場に対する慣れによる精神面の差があったのかもしれません。

終わりに

今大会で日本代表チームとしてベスト8入りを果たし健闘した10sf、紳士的な振る舞いをしてくれた海外プロチーム、素晴らしい試合の数々を実現してくれたM2に感謝したいと思います。

M2を通じて世界のたくさんのモバレファンが10sfの試合を観戦し、再度日本のモバレに注目が集まっています。次回大会以降、日本代表にはこれまで以上に熱い期待の目が向けられる事でしょう。日本のモバレがM2からたくさんの事を吸収し成長発展することで、いつか日本のモバレが世界一の座にたどり着く事ができますように。

本記事のライター:Nabe

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